今回も、僕の周りであったことを物語調で書いています。
■それでは、ここからスタート⬇
観戦されていると、時に観戦者からの言葉が突き刺さり、傷付くことがある。
今回は、そんな話。
僕がウル4でCPU戦を楽しんでいると、隣の筐体に若いカップルが座ってきた。
年のころは、10代後半から20代前半だろうか。彼氏は金髪でピヤスをしていて、ヤンチャな印象を受ける。彼女も、髪を真っ赤に染め上げ、眉をこれでもかというぐらい細くし、やはりヤンチャな印象を受けた。
内心、恐くなったが、ゲームは続いているので、その場から離れる訳にも行かず、自分のプレイに集中していると、隣から楽しそうな声が聞こえてきた。
「ヤッベ!やっちまった」
「ターくん、コンボミスってる。ダッサー!」
あれ?意外と普通だ。
二人の会話を聞いて、僕は自分が人を見掛けで判断したのを反省した。
それにしても、このカップル。
けっこうゲームに詳しいようで、やれキャンセルがどうの、やれ立ち回りがどうの、格闘ゲームの専門用語をばんばん使った会話をしていた。
僕は、たーくんなる人物のプレイが気になり、横目でチラリとたーくんのプレイを見ることにした。
そして、たーくんのプレイに僕は唖然とした。
(たーくん、めっちゃうめぇえぇッッ!!)
たーくんは、ギルティギアイグゼクスアクセントコア+Rをプレイしていた。
キャラクターはヴェノムで、ボールを生成して、COMをガードさせたあと、固めやループをしたかと思えば、COMが通常技を差してくるタイミングを見払かい、スラッシュバックという高等なガードシステムを駆使して、流れるようなプレイで彼女を魅了していた。
あまりにも凄いプレイを見せ付けられ、僕には別の心配が出てきた。
やがて、僕より後にプレイを始めたたーくんは、僕より先に隠しキャラクターの聖ソルを出し、全クリしてその場を立った。
そのまま去ってくれるのか。
僕は、ケンをプレイしていて、やっとルーファスまでたどり着いたところで、勝ち進めばルーファスを含めてあと3人は居ることになる。
その3人を楽しくプレイしたかったので、たーくんにはその場から去ってもらいたかった。
「ケンか…」
しかし、駄目だった。
たーくんとたーくんの彼女は、あろうことか僕の後ろに立ち、仁王立ちで腕を組ながらプレイをがん見していた。一瞬ブラックアウトした画面越しに、たーくんのこっちを観戦する真剣な眼差しが映し出された。
COMルーファスとの対戦が始まった。
まるで、何かの試験をさせられているようで、水も喉を通らない状況だったが、それでも自分なりに頑張ってみた。
しかし、たーくんの容赦ない指摘は飛ぶ。
「今の場面は、しゃがみ中パンだね」
一言聞こえたかと思ったら、たーくんはそれを皮切りに、がんがん指摘し始めた。
「あー、おそい。ずらし押し失敗してるし。てか、この人困ったら昇龍多いな。出せないだろ、今の状況じゃ!」
…なんか、すみません。
たーくんの指摘は、実際当たっていた。
COMルーファスは、レベルをノーマルぐらいに設定してあると、昇龍ぶっ放しに当たってくれることが多かった。しかしそれは、CPU戦だからできることで、対人戦でそれをやった場合、当たってくれる人などまず居ない。
たーくんの指摘は、それを理解した上でのものだった。
観戦者には色んなタイプの人間が居るが、僕が苦手とするタイプはこういう上級者の初心者に対するダメ出しだった。
自分で失敗しているのは分かっている。当たってくれるだろうとぶっ放しをすることかどれだけ無謀なことも理解している。
でも、初心者の僕は、そこまで状況を冷静に分析して、プレイできる腕は持ち合わせていないのだ。
たーくんよ!そこをもっと考えてくれッッ!!
僕が心の中で強くそう願ったのが通じたのか、たーくんは最後にこう言った。
「でも、俺じゃこの人には敵わないな」
僕は、それをたーくんの優しさだと受け取った。
たーくんの言葉に、今まで指摘を受け続けた僕の心は救われた気がした。
嘘でも、そういう風に言ってもらえると、心とは不思議と落ち着くものである。
そんなたーくんに彼女は言った。
「なんで?」
彼女ぉおぉおぉーッッ!!
僕は、ちょうどセスにウルコンを決めようと強昇龍拳をセビキャンしたところで、ダッシュをし損ねて受け身を取ったセスに逆にウルコンを入れられてしまった。
「この人、プレイ中ミスばっかじゃん。しかも、やっちゃいけないところでミスばっかりしてるし。こんな人にたーくんが負ける訳ないって!」
「あっ、いや。あのね」
たーくんは、彼女の思いもよらぬ言動にタジタジだった。
彼女は、興奮した様子で、たーくんを指さしそのあと筐体を指差した。
「気になるなら乱入すればいいじゃん。たーくんは強いんだよ。それは、私が一番分かってる」
いや、あのね。たーくんもそれは分かってるんだよ。
俺なんか、簡単に勝てることぐらい、たーくんは見れば分かるって。
でもね、たーくんは初心者の俺を傷付けまいと嘘を付いたんだ。
その優しい嘘に彼女である君も気付くべきじゃないのかな?
彼女は、きっと格ゲーをするたーくんの姿が本当に好きだったのだろう。だから、たーくんの嘘を真に受けてしまい、というか、見るからに初心者の僕に負けると言ったたーくんの発言が許せなかった。
それは分かるッッ!!
分かるけど、それを初心者である僕の前で言わないで。
嘘を付かれた僕が余計に惨めになる。
そんな僕の願いも空しく、彼女はたーくんに乱入をグイグイ勧める。
収集が付かなくなったたーくんは、彼女に言った。
「あっちにUFOキャッチャーがあるから、それやろうか」
「いや、だから!たーくん、乱入した方が良いって!普通に楽勝な筈だから!」
うぅー…。彼女の言葉も、たーくんの優しさも、オラには辛い。
閲覧ありがとうございました!