ゴールデンウィーク最終日。
その日は、こどもの日ということもあり、小学生や中学生といった、比較的低い年齢層の学生も格闘ゲームに勤しんでいた。
子供の頃の格闘ゲームと言えば、友達同士との対戦やCPU戦を楽しむのが一般的だろう。中には、両親の趣味が格闘ゲームという家族も居て、家族で対戦を楽しむプレイヤーも居た。
そういうとき、おじさんプレイヤーは、ゲームはせず、ギャラリーに徹するものである。
「おや、446さんもギャラっている感じですか?」
僕が腕を組んで、スト3サードを観戦していると、いつも僕をスト3サードでフルボッコにしてくる、そのゲーセン最強の一角である、レッドユリアンが声を掛けて来た。
「はい。そちらもですか?」
僕がそう聞き返すと、レッドユリアンはにこりと笑い、頷いた。
「さすがゴールデンウィーク最終日だけあって、人も多いし、対戦も楽しめますね」
どうやらレッドユリアンは、対戦をお腹一杯したようで、楽しそうに話していたが、446はもう2時間も居るのに、1回も対戦をしていなかった。
「そんなに対戦できます?けっこう、身内での対戦ばっかりだから、僕は対戦できてないですけど」
対戦を楽しんでいるレッドユリアンに、ちょっと嫉妬した446は、少し苛立ち気味にそう言うと、レッドユリアンは、そんな446の表情など微塵も気にせず、またしてもニコリと笑う。
「あそこを見てみなさい」
レッドユリアンは、ウルトラストリートファイター4の方を指差し、続けて話す。
「僕が乱入すると『素人狩り』になっちゃうから乱入できないけど、多分、446さんだったら、よい勝負になるでしょう」
「あっ…、ありがとうございます!」
レッドユリアンの優しい心遣いに感謝し、急いで乱入しようと、財布からお金を取りだし、筐体の前に座ったとき、446はふと我に返った。
ちょっと待て!
このレベルの人達を素人狩りになると言うのなら、いつも俺に乱入してくる時は、素人狩りしているという自覚を持って、俺をフルボッコにしているのか!
レッドユリアンの言動に、レッドユリアンの心理をみた446は、改めて心の中だけで誓った。
レッドユリアン!
貴様は、何千年掛かろうと、必ずぶっ倒すッッ!!
だが、今は目の前の試合を楽しむことが先決である。
446は、ケンを選択すると、ウル4の試合が始まった。
何戦かしていると、レッドユリアンが誰かと話し始める声が聞こえた。
「お久しぶりです」
「やぁ!」
レッドユリアンが敬語を使わないところをみると、まだだいぶん若い子のようだ。
「どう、最近は?」
「中段を豊富に持ち、二択が掛けやすい、ヒューゴーを使っています」
若い子のようだが、しっかりと自分の考えを持っている。中学生。いや、小学校高学年か?
446は、対戦よりだんだんレッドユリアンと話すその子の年齢の方が気になってきた。
「そういえば、お父さんとお母さんは格ゲーするの?」
「いえ、両親はそういうのに興味が湧かないようで。僕も、レッドユリアンさんとの出会いがなければ、今ごろ趣味を持つことのない、つまらない人間を続けていたと思います」
………。
ちょっと待って。きみは一体何者!?
話す言葉遣いといい、その内容といい、まるで、漫画やアニメなんかに出てくる、優等生キャラである。
レッドユリアンとの出会いも気になるところだが、その前にその子の年齢はかなり気になる。
正直、もう対戦なんてどうでもいい!
446は、早々に対戦を辞めると、急いで後ろを振り向いた。
「紹介しますよ、446さん。こちら、ポカリくん、7歳!」
予想を裏切らない、ぶっ飛んだ設定だ……。
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