震災の影響もなんのその。自称スコアラー446は、今日もCPU戦でスコアネームをランキングに刻む為に車を走らせる。
着いたゲーセンは、いつもヒゲリンが行き着けとしている個人経営のゲーセン。店内は、店長しかおらず、BGMも流れていないため、いたって静かである。
そこは、CPUのレベルをどの格ゲーもMAXにしてあり、あの簡単なメルティブラットさえ、油断していると体力を一気に7割ぐらい削られる。
そんなゲーセンで、スコアネームを残せれば、少なくとも仲間内には自慢できるという、ちっぽけな自尊心を抱え、スコアラー446は現場に赴いたのだ。
今回挑戦した格ゲーは、エヌアイン完全世界。
446がもっとも得意としている格ゲーであり、スコアにも自身のある格ゲーだ。
早速、50円を投入し、スタートボタンを押す。タイトル画面が切り替わり、キャラクターセレクト画面となる。
「よし、今回は無難にアカツキにしよう!」
446は、店内にわざと聞こえるように大声でそう言った。
アカツキは、エヌアイン完全世界という格ゲーに於て、素人でもそこそこスコアを狙えるキャラクターであり、本来はスコアを狙うキャラクターではない。だが、446はスコアを狙えるキャラクターがアカツキしかいなかった。わざわざ、スコアを狙う為にこのゲーセンに来ているというのに、スコアを狙えるキャラクターがアカツキしかいないと分かれば、いい笑い者である。446は、自分のちっぽけな名誉を守る為に、大声で店内の店長にそう伝えることで、虚栄を張ったのだ。
そんな446の気持ちを知ってか知らずか、店長は446の言葉に反応を示すことなく、新しく導入するKOF NWのインストカード作りの作業に没頭していた。
そして、いよいよゲームが始まった。
1面から446のアカツキを潰しに掛かって来るCOMカティ。完全錬鎖から、きっちりコンボを決めてダウンを奪って来る。下手なリバーサルをしようものなら、カティの格好の餌食となり、カウンターから火力の高い連続技を決めてくる。極めつけは、完全世界で回復してくること。無論、完全世界発動後はCOMにも関わらずがっつり待ってくる。
(流石はレベルMAX。一筋縄ではいかないか)
ニヤリと笑い、格好つける446だったが、実際その試合内容は恥ずかしいもので、1面から危うくラウンドを取られるところだった。その後も、危ない試合展開が続いたが、指が馴れてきたのか、3・4面になると、だいぶん体力にも余裕が出てきたようだった。
(これなら、後半でスコアを取り戻せる。しかも、レベルが高ければ高いほど、スコアは稼ぎやすい!)
エヌアイン完全世界のCPU戦には、全部で3つのCPU戦のテーブルがあった。カティは、その中でも一番スコアを稼ぎやすいテーブルで、しかもレベルが高ければ高いほど、最終ボスであるヴァルキュリアは、滅心斬と落鳥斬という技を多用してくるので、Dボタンで防御することにより、レベルを落としてあるときよりもスコアを稼ぎやすくなるのだ。無論、ラウンドを落とさず進むことと、COMを倒すとき、完全神殺か最終特攻で締めることが絶対条件とはなるが。
だが、相手がおらず、空しさに暮れながら、常に1人でCPU戦をやっている446にとって、それは造作もないこと。ヴァルキュリアまで辿り着くと、その方法でスコアを伸ばしていく。そして、ヴァルキュリアは倒れ、画面はエンディングへと移行する。
(フフッ。三本先制で240万か。悪くないな。)
悪くないというか、446にとって、それは自己最高のスコアだった。
446は、満足しながら、自分のスコアネームを入力するため、エンディングロールが終わるのを待つ。やがて、エンディングロールは終わり、そこにスコアネームを入力する画面が表示される筈だった。
が、出ない!
おかしいなと思い、もう1回確認する446。
でも、やっぱり出てないッッ!!
焦った446は、急いでランキングに表示されているスコアを確認した。するとー…。
20位のスコアが308万!
しかも、キャラはアカツキだった。
………。いや、ぶっちゃけそんなにスコア出せんの!?
「てんちょおぉおぉおーッッ!!」
半泣きしながらも、事の真相を確かめるため、446は店長に質問する。
「あ…あ…アカツキで、さんびゃくまんとかスコア出せんの?俺がいつもやってるゲーセンじゃ、マリリンや戦車でもそんないってないけど」
震える声で質問する446に対し、店長は至って冷静だった。
「うん、てか普通だよ」
撃沈。
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