その日、446・ヒゲリン・サラブレッドの三人は、久しぶりに集まって格闘ゲームの対戦会をゲームセンターで行っていた。
昨今、家庭用ゲーム機の影響により、ゲームセンターよりも自宅で対戦会をやる人が多くなっているが、三人は根っからのアーケード勢で、ゲームセンターで対戦することに意味がある!と、よくワケのわからない信念を掲げ、ゲームセンターで対戦を行っていた。
そして、対戦を終え、落ち着いた三人は、各々の好きな格闘ゲームをしに散らばった。
446は、メルブラのロアにハマっていて、ずっと練習をしていた。そこへ、何をしようか迷っていたヒゲリンが声を掛けてきた。
「446くん、ロアしてんの?」
「まぁね」
「入っていい?」
「いいよ。お手柔らかにね」
対戦会が終わって、好きなものをやろうとなっても大抵はそうで、連れの誰かが格闘ゲームをやっていたら、自分の不得意格闘ゲームでもとりあいず乱入する。それが、仲間内での鉄則だった。
ヒゲリンは、446よりメルブラが上手で、あっという間に446のロアをシエルで粉砕する。だが、お互いに勝敗などどうでもよく、試合の途中経過で試していたことなどを話ながら盛り上がっていると、ヒゲリンの隣にニット帽を深くかぶった中年男性がゲームをし始めた。
しかも、それはメルブラだった。
446とヒゲリンが、適当にメルブラを楽しんでいる横で、ニット帽の男性はとてつもない上級コンボをやってみせた。
メカ翡翠のワイヤーループや五月のコマ投げループといった有名なものから、ネロカオスのカラスループ、果てはシオンのムチループまで。
その素晴らしき上級コンボを目にしたとき、自分達のやっていたコンボがあまりにも惨めになってきて、446とヒゲリンは顔を見合わせ、その場をあとにした。
その後も、ニット帽はずっとCPU戦で凄まじいプレイを魅せていた。446達も、対人戦をしながら遠目にその人のプレイを観戦していた。
ニット帽は、ギャラリーを意識しているようで、CPU戦で見てる人が飽きない工夫をしているようだった。
あるときはとてつもない魅せコンでギャラリーを魅了し、またあるときは必殺技や超必殺技だけで勝つというプレイスタイルで観客を湧かせ、またまたあるときはアーケードモードのデモを飛ばさずにプレイし、ストーリーが好きな人にも楽しんで貰う配慮をした。
そのバラエティ豊かなCPU戦のパフォーマンスは、老若男女問わずさまざま人の目に止まり、誰もが立ち止まり1プレイ分の観戦をする。そして、立ち止まった人々は、そのプレイに称賛し、ニット帽が一人のキャラを全クリすると、観客も去っていった。
「あれだけ凄いプレイができたら楽しいだろうね」
「でも、相当な練習が必要だよね」
446とヒゲリンがそんなことを言っていると、ニット帽が僕らの隣にやってきて、目の前でカードを入れて、今度はアンダーナイトインヴァースをやり始めた。
446とヒゲリンは、そのとき自分達の認識が間違っていたことに気付く。
乱入対戦している横で、魅せプレイをするというのは、上級者が初級者や中級者に「こんなこともできるんだぜ」と魅せて来ることが多い。446とヒゲリンも、当然ニット帽の行動はそういう意味だと思っていた。
だが、カードを入れたという時点で、その見解は覆された。
「446くん。これってー…。」
「乱入…待ち」
446が呟いた瞬間、ニット帽がチラリと二人の方を向く。そして、キャラクターを意図的に止めたのだ。
「ヤバイって!完全にこっちの声に気付いて待ってる感じだよ。さっきまで、リンネフルボッコにしてたのに、完全に動き止まってるから!446くん、アンダーナイトやってたろ?行くしかないって!」
「いやいやいや、ムリムリムリ!乱入したら、とんでもないことになるから!CPUのリンネ以上に、俺のリンネボコられちゃうから!」
首を激しく横に振った446は、首と一緒に身体も横に振ってしまい、お腹の贅肉も一緒に揺れていた。
446とヒゲリンは、勝敗など気にしない緩いゲーマーだが、さすがに己のレベルは弁(わきま)えていた。
強者に乱入し、ボコボコにされつつも、その試合を楽しむというのはゲーマーなら誰でも思う気持ちだが、レベルがあまりにもかけ離れている場合、それはまた別の話になる。レベルが離れている相手に乱入すれば、お互いに熱が冷めてしまい、途端に試合が冷めてしまう傾向が強い。
そんな心理が働くと分かっていて、ニット帽に乱入する者は誰もいなかった。
「強者には憧れるけど、強者には強者の悩みがあるんだね」
「あまりに強すぎて、誰も対戦してくれないってのも辛いよね」
446とヒゲリンがしみじみと話していると、一人の中年男性がニット帽の方を確認し、コインを投入した。
それは、サラブレッドだった!
「え?446くん、サラブレッドくんってアンダーナイトできるの?」
「あっ…いや。分からないけど、相手のレベルが分からないこともないと思うから、そこそこ戦えると思ったんじゃないかな」
そんなことを二人が話している内に、試合は始まり、ものの十秒も経たずに試合は終了した。その後、何回か挑戦したサラブレッドだったが、回を増す毎に試合内容が酷くなっていった。
消沈して446とヒゲリンのもとへ来たサラブレッドに、446はサラブレッドが傷付かないよう優しく聞いた。
「サラちゃんって、アンダーナイトしたことあったっけ?」
「いや、まったくしたことないけど!」
なんで乱入したんだ。
閲覧ありがとう御座いました!
昨今、家庭用ゲーム機の影響により、ゲームセンターよりも自宅で対戦会をやる人が多くなっているが、三人は根っからのアーケード勢で、ゲームセンターで対戦することに意味がある!と、よくワケのわからない信念を掲げ、ゲームセンターで対戦を行っていた。
そして、対戦を終え、落ち着いた三人は、各々の好きな格闘ゲームをしに散らばった。
446は、メルブラのロアにハマっていて、ずっと練習をしていた。そこへ、何をしようか迷っていたヒゲリンが声を掛けてきた。
「446くん、ロアしてんの?」
「まぁね」
「入っていい?」
「いいよ。お手柔らかにね」
対戦会が終わって、好きなものをやろうとなっても大抵はそうで、連れの誰かが格闘ゲームをやっていたら、自分の不得意格闘ゲームでもとりあいず乱入する。それが、仲間内での鉄則だった。
ヒゲリンは、446よりメルブラが上手で、あっという間に446のロアをシエルで粉砕する。だが、お互いに勝敗などどうでもよく、試合の途中経過で試していたことなどを話ながら盛り上がっていると、ヒゲリンの隣にニット帽を深くかぶった中年男性がゲームをし始めた。
しかも、それはメルブラだった。
446とヒゲリンが、適当にメルブラを楽しんでいる横で、ニット帽の男性はとてつもない上級コンボをやってみせた。
メカ翡翠のワイヤーループや五月のコマ投げループといった有名なものから、ネロカオスのカラスループ、果てはシオンのムチループまで。
その素晴らしき上級コンボを目にしたとき、自分達のやっていたコンボがあまりにも惨めになってきて、446とヒゲリンは顔を見合わせ、その場をあとにした。
その後も、ニット帽はずっとCPU戦で凄まじいプレイを魅せていた。446達も、対人戦をしながら遠目にその人のプレイを観戦していた。
ニット帽は、ギャラリーを意識しているようで、CPU戦で見てる人が飽きない工夫をしているようだった。
あるときはとてつもない魅せコンでギャラリーを魅了し、またあるときは必殺技や超必殺技だけで勝つというプレイスタイルで観客を湧かせ、またまたあるときはアーケードモードのデモを飛ばさずにプレイし、ストーリーが好きな人にも楽しんで貰う配慮をした。
そのバラエティ豊かなCPU戦のパフォーマンスは、老若男女問わずさまざま人の目に止まり、誰もが立ち止まり1プレイ分の観戦をする。そして、立ち止まった人々は、そのプレイに称賛し、ニット帽が一人のキャラを全クリすると、観客も去っていった。
「あれだけ凄いプレイができたら楽しいだろうね」
「でも、相当な練習が必要だよね」
446とヒゲリンがそんなことを言っていると、ニット帽が僕らの隣にやってきて、目の前でカードを入れて、今度はアンダーナイトインヴァースをやり始めた。
446とヒゲリンは、そのとき自分達の認識が間違っていたことに気付く。
乱入対戦している横で、魅せプレイをするというのは、上級者が初級者や中級者に「こんなこともできるんだぜ」と魅せて来ることが多い。446とヒゲリンも、当然ニット帽の行動はそういう意味だと思っていた。
だが、カードを入れたという時点で、その見解は覆された。
「446くん。これってー…。」
「乱入…待ち」
446が呟いた瞬間、ニット帽がチラリと二人の方を向く。そして、キャラクターを意図的に止めたのだ。
「ヤバイって!完全にこっちの声に気付いて待ってる感じだよ。さっきまで、リンネフルボッコにしてたのに、完全に動き止まってるから!446くん、アンダーナイトやってたろ?行くしかないって!」
「いやいやいや、ムリムリムリ!乱入したら、とんでもないことになるから!CPUのリンネ以上に、俺のリンネボコられちゃうから!」
首を激しく横に振った446は、首と一緒に身体も横に振ってしまい、お腹の贅肉も一緒に揺れていた。
446とヒゲリンは、勝敗など気にしない緩いゲーマーだが、さすがに己のレベルは弁(わきま)えていた。
強者に乱入し、ボコボコにされつつも、その試合を楽しむというのはゲーマーなら誰でも思う気持ちだが、レベルがあまりにもかけ離れている場合、それはまた別の話になる。レベルが離れている相手に乱入すれば、お互いに熱が冷めてしまい、途端に試合が冷めてしまう傾向が強い。
そんな心理が働くと分かっていて、ニット帽に乱入する者は誰もいなかった。
「強者には憧れるけど、強者には強者の悩みがあるんだね」
「あまりに強すぎて、誰も対戦してくれないってのも辛いよね」
446とヒゲリンがしみじみと話していると、一人の中年男性がニット帽の方を確認し、コインを投入した。
それは、サラブレッドだった!
「え?446くん、サラブレッドくんってアンダーナイトできるの?」
「あっ…いや。分からないけど、相手のレベルが分からないこともないと思うから、そこそこ戦えると思ったんじゃないかな」
そんなことを二人が話している内に、試合は始まり、ものの十秒も経たずに試合は終了した。その後、何回か挑戦したサラブレッドだったが、回を増す毎に試合内容が酷くなっていった。
消沈して446とヒゲリンのもとへ来たサラブレッドに、446はサラブレッドが傷付かないよう優しく聞いた。
「サラちゃんって、アンダーナイトしたことあったっけ?」
「いや、まったくしたことないけど!」
なんで乱入したんだ。
閲覧ありがとう御座いました!